大会長挨拶

第26回日本緩和医療学会学術大会
大会長 橋口 さおり

 この度、第26回学術大会の大会長を務めます慶應義塾大学病院緩和ケアセンターの橋口さおりです。年次学術大会を開催させていただくにあたり、ご挨拶を申し上げます。

 日本緩和医療学会は1996 年に設立されて以来、四半世紀が経過いたしました。特にがん対策基本法が施行されてから患者さんの意向を十分に尊重した治療の必要性が認識されはじめ、当学会は緩和ケア病棟やホスピスだけではなく、早期からの緩和ケアの推進に着手いたしました。そして緩和ケアチームの整備、緩和ケアを普及するための啓発活動、様々なガイドラインの作成、専門性の要となる専門医制度の構築と専門医および認定医の養成、各種教育セミナーの開催などの活動を通し、日本の緩和医療の一翼を担ってまいりました。

 一方で、緩和医療を取り巻く社会環境は目覚しく変化しています。緩和医療は、がんだけではなく生命を脅かすあらゆる疾患のために苦悩する患者さんやご家族の生活の質の向上を目指すものです。さらに、世界的な新型コロナ感染症の先には、これまでとは異なる緩和医療の提供体制が必要となるかもしれません。また、Palliative careやAdvance care planningは海外から持ち込まれた概念ですが、持ち込まれたものを妄信することなく、その国々の文化に根差したものを構築する必要があると感じています。

 本大会のテーマは「初心忘るべからず(初心不可忘)」としました。「初心不可忘」は能楽を大成した世阿弥の言葉です。緩和医療の現場に身を置くには、単に技術や知識を習得するだけでは不十分です。苦しみに向き合うためにも、しなやかな心を持つことが大切です。私たちは古典芸能、文学、映画、絵画などに多くのヒントを見出すことができるのではないでしょうか。

 「初心」には最初の志という意味だけではなく、その時々の初心があるといいます。緩和医療の今の初心を確認し、未来の姿を描き、これからの発展の基礎にするような大会とするべく、大会長をはじめ本大会の関係者が総力をあげて大会を盛り上げられますよう鋭意準備中でございます。

 会員諸氏や、緩和医療に興味をお持ちの皆様方におかれましては、多忙な日々をお過ごしのことと存じますが、ぜひ学術大会にご参加いただき、研鑽にお役立ていただく機会となれば幸いです。

第26回日本緩和医療学会学術大会
大会長 橋口 さおり
慶應義塾大学病院 緩和ケアセンター